ウサギとカメの物語 2
優くんのさっき見せた真剣な表情は、いつの間にか元のニコニコ笑顔に戻っていて。
あれは気のせいだったかなと思うほどに、彼はいつもみたいに私に笑みを向けてくるのだった。
「まぁ、俺の話はいいからさ~!梢の明るくて楽しいラブラブ話の方をもっと聞かせてよ!」
なんて言いながら笑うから、私は「なんにも無いよ」と返すことしか出来なかった。
そんなおおっぴらにノロける話がある訳でもないし、特別素敵なエピソードがある訳でもない私とカメ男の恋愛なんて、話しても余計なことを言ってバレてしまいそうだから口をつぐむ。
「俺の今の栄養源は、人の恋愛話だからさ~」
あはは、と優くんは笑っていたけれど。
その笑顔はほんの少しどこか寂しそうだった。
それを見て、やっぱり彼は叶わない恋をしているんだと勝手に思い込んでしまった。
私のボキャブラリーの少ない引き出しから優しく聞こえるような言葉を引っ張り出して、彼に丁寧に声をかける。
「優くんはイケメンなんだから自信持たないと!……あ、自信はあるのか。とにかく!私でよければ話聞くし!あんまり悩まないでさ!」
「………………梢ってば優し~い。ありがと」
頬杖をついて、優くんは嬉しそうに微笑んでくれた。
意外に繊細なのかもなぁ、優くんって。
そう思った出来事だった。