ウサギとカメの物語 2
次の金曜日は久しぶりに駅裏の居酒屋「酔いどれ都」に行こうと話していた私とカメ男。
ところがそれはあっさりカメ男によってキャンセルされた。
地元の友達が結婚式でこっちに帰ってくるらしく、久しぶりに地元の仲間で会おうということになったようなのだ。
私としては、カメ男に田嶋以外の仲のいい友達がいるという事実に失礼ながらとても驚いたのだけれど。
まぁでもヤツのことだから、ワイワイガヤガヤおしゃべりしてる友達の中でもいるかいないかの微妙な存在感で、いつものごとく聞き役をやってるんだろう。
ただ、そういう仲間と呼ぶメンバーの中に女の子が混ざっていると聞いても、私の中で特にこれといった感情が生まれることも無くて。
それがヤツを信頼しているからなのか、それともヤツに言い寄る女なんている訳がないと思っているのか。
自分でもよく分からなかった。
「私なら嫌だな、なんとなく」
そんな私の考えを真っ向から否定してきたのは奈々だった。
彼女の手には冷えたビール。
ほんのり赤い顔をして、いい感じにお酒が回ってる様子だ。
結局、カメ男が飲みに行ってしまったので予定が空いた私は、帰りがけに奈々を誘って「酔いどれ都」に来ていた。
彼女は彼女で、田嶋が営業課に入った新入社員の歓迎会に出かけてしまったらしく。
お互い予定の無い金曜日ということで、タイミングが良かった。
奈々自身から聞いたことがあったけれど、彼女は割と嫉妬深いらしい。
「だってさぁ、どうするの?前のコズみたいに酔いつぶれて寝ちゃった女がいたら。須和のことだからタクシー乗せて持ち帰るんじゃないの?」
「どこのチャラ男の話してんのよ。あいつがそんなことする訳ないでしょうが」
「分かんないじゃ~ん!好きだからこそ疑っちゃうじゃない」
普段の性格は似ている私たちだけれど、恋愛に関しては考え方が少し違う。
現に彼女は今の彼氏の田嶋順と付き合うまでに告白待ちの状態を3年も保持した女だ。
ろくに話したこともなかったカメ男と3ヶ月で付き合うことになった私とはエラい違いだ。
そりゃ私だって人並みに焼きもちは焼くけど。
カメ男に対してはそのへんの心配は無いっていうか。
ヤツに好意を寄せる女なんてそうそういないだろうと勝手に思っているのだ。