ウサギとカメの物語 2


「私に比べたら確かに奈々は色々と心配よね。田嶋は優しいからなぁ……」


私のつぶやきに、奈々は何度も何度もうなずく。
なんならちょっと泣きそうな顔までしちゃってるし。


「そうなのよ!聞いてよ!順ったら得意先のスーパーの女の子に告白されたっていうのよ!もうこっちは気が気じゃないんだから!……いいなぁ、コズは。須和だったらそんなこと絶対無いもんねぇ」


勢い余ってめちゃくちゃ失礼なことを私に言ってるんだけど、そのことに奈々は気づいていない。
彼女の言うことはあながち間違ってはいないので、言い返すこともしなかったけど。


田嶋順という男は顔もまぁまぁ、身長もまぁまぁ。
全てが平均より少し上のレベルながら、その恐ろしいほどの優しさで意外に女性にモテるらしい。
話し方とか、声のトーンとかも優しくて、営業職なんかじゃなくて医療関係に勤めていたらおばあちゃん世代にも爆発的な人気を得てしまいそうなタイプだ。


「それを言うなら奈々だってこの間ナンパされてたじゃない、駅前で。しかもけっこうかっこよかったよね。ちょっとバカそうだったけど」

「あんなのナンパに入るか!相手は大学生だったんだから!バカにしてんのよ、20代後半を」


奈々はやや憤慨しつつ、私の食べていたおでんに箸を伸ばして大根を引っつかむ。
そのまま大きな口で大根をパクッとひと口で食べた。


「まぁ、そんな不安がらなくてもさ。近いうち結婚でもしちゃえばいいのに」


私がそう言うと、奈々は口を尖らせて「無理だよ」とため息をついた。


「結婚は営業で1人前になってから、って言われたもん。まだまだ先よ、きっと……」

「1人前ってどうなれば1人前なのよ」

「知らない!こっちが聞きたいわ!」


口の中いっぱいに鳥の唐揚げを突っ込んで、不機嫌な奈々はそれをビールで流し込んでいた。


< 49 / 155 >

この作品をシェア

pagetop