円満破局
いつものリュックに、グレーの柔らかいマフラー。
肌触りがよくて、去年に何度か触らせてもらったそこから覗いた綺麗な黒髪。
はるくんにしては珍しいことに、少し行儀悪くブレザーのポケットに手を入れている姿さえもかっこいい。
背を向けて、わたしより前を行くはるくん。
本当にとても素敵で、いつもと違って周りの目を気にせず彼を見つめられることに胸がどきどきする。
そして同時にとても、切ない。
振り返って、わたしを目で捉えて。
困った顔でもいい、驚いた顔でもいい、辛いけどこの際嫌そうな顔でもいい。
だから「笑花」って、わたしの名前を呼んでくれたらいいのに。
でもそんなわたしの願いが叶うはずもない。
ずるいわたしの、願いなんて。
でも……本当はずっと、そんなことを望んでいた。
別れてなお、はるくんを失いたくなかった。
だって君は気づいていなかったけど、わたしはたくさんの言葉に君への想いをこめていた。
「おはよう」も「バイバイ」も「ありがとう」も「ごめんね」も。
君に告げる言葉には、みんな目一杯の、周りを気にしてしまうわたしの精一杯の「大好き」をこめていた。
それは今も、……変わっていない。