円満破局
わたしは、あの日始まったこの恋が大切で、守りたくて、愛おしくて。
だからこそ、苦しくて。
そしてとても分不相応だったから。
この関係を、恋を、手放すことに決めた。
わたしがどうしてこんな結論に至ったか、はるくんはわかってくれている。
これは今までにないくらい悩んで、苦しんで、その上で出したわたしなりの答え。
だからこそなにも訊かずに受け入れてくれるの。
こんな円満な別れなんて早々ない。
それは喜ばしいことなのに、どうにもうまく言葉にできないほど……切なくて。
わがままで、迷惑かけてばかり。
そんなだめなわたしが彼女できっと彼も大変だったに違いない。
付き合うことになったあの日。
空気が頬を切りつけるような寒い日のほどけるような幸せは、今でもよく覚えている。
君がわたしの大好きなあの笑顔を向けてくれたこと。
好きだよと恥ずかしそうに首を傾けたこと。
美しいものに触れるように、そっと優しく指が絡んだこと。
あの日のことを、わたしは一生忘れない。
今でもわたしはそう思っている。
思っているけど、今ここで、全てを終わらせる。
わたしが傷つかないために。
はるくんを、傷つけないために。
泣きそうに小さく笑って、手を離した。
わたし、西田 笑花(にしだ えみか)と彼、榎本 晴也(えのもと はるや)くんの恋がこうして静かに幕を閉じた。