円満破局
「……本気で言ってるの、それ」
驚くほど低い声が、はるくんから熱を抑えつつ絞り出すように吐き出される。
彼のものだとは思えないそれは重たく、胸に言葉が沈んでいくよう。
こくりと頷けば、彼の瞳が今まで見たことないほど鋭いものになった。
「嫌いになっていい?
笑花は俺をばかにしてるの?」
「ちがっ、わたしはただ、」
「なれるわけがないじゃないか!」
焦るわたしの言葉を遮って、はるくんが怒鳴るように悲痛そうな声を上げる。
そのままずんずんと近づいてくるはるくんを目にして思わず後ずさる。
がたがたと机がぶつかり合う音を耳にしたと思ったら、わたしは息ができなくなった。
肩が、腕が、胸が軋むように痛む。
床にはつま先だけがわずかに触れていて、体が浮いている。
視界に広がる黒板にオレンジと闇が溶かされていった。
よく知っている彼の香りがわたしを捕まえる。
────わたしは、はるくんに抱き締められていた。