円満破局




これがわたしと榎本くんの初めての会話で、以来わたしたちはそれなりに話す関係になった。

おはようとかバイバイとか、そんなこれといった印象に残らないだろうなぁって感じの会話だったけどね。



しかもそれなりっていうのも、あくまでわたしにとってであり、彼にとってじゃない。

彼はもっとたくさんの人と言葉を交わしているから、きっとわたしと交わした言葉なんて特に覚えていない。



それでも、わたしはそのわずかな時間が嬉しくて。

……嬉しくて。



通学路で君を見かけるだけで、その日は1日浮かれてしまうことが多かった。



それに、どこにいても彼のことは一瞬で見つけられたんだ。

そして見つけることができる自分が嫌いじゃなくて。



授業中の頬杖をついた後ろ姿も、友だちと笑い合う横顔も素敵で。

わたしはひとりにまにまと笑ってしまっていた。



そうしたら、ふと目が合ってびっくりしたり。

「なに?」と首を傾げる榎本くんの仕草が可愛くて、どきどきしすぎてどうしようかと思ったんだよ。



緊張のあまり不自然になる自分の態度に落ちこんで、それでも君の声が聞こえるだけで元気になって。



ノートの受け渡しで触れた指先が震えてしまったの、気づかれてなかったかな?



向けられる笑顔が、優しい声が、君の全てがわたしの心を震わせるから。

……わたしは、いつしか君を好きになっていた。



叶わない恋をしてしまったと、わかっていた。

そう、思っていた。



だけど……。






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