円満破局
*
がらりと教室の扉を開ける。
わたしのひとつ前の席に座って、残っていたクラスメートと話しているはるくん。
音に反応して顔を上げ、わたしの姿を捉えた目元が柔らかな曲線を描く。
「笑花」
「待たせちゃってごめんね」
「はは、大丈夫。
俺もちょうど用事あったし」
ちくりと細い針が胸をかすめたように痛む。
誤魔化すように笑って、そっかと返した。
「晴也、帰るわけ?」
「あたしたちを見捨てるんだ」
そんな風に恨みがましく彼を見上げるのは、弓道部に所属している明口(あきぐち)くんと木原(きはら)さん。
明口くんは数少ない、彼を『晴也』と呼ぶ人。
だから他の人より印象が強いんだよね。
「いやいや、課題出さなかったお前らが悪いんだろ!」とはるくんが笑っているから、この前の数Ⅱのことかな。
はるくんは勉強も得意だから、わたしもよく教わるんだ。
先生よりわかりやすくて、彼は本当になんでもできるすごい人なんだよね。
はるくんがふたりの課題を見てあげてたみたいだし、終わるまで待ってた方がいいのかなぁ。
そう思いつつ首を傾げていると、はるくんが机に置いてあったわたしの鞄を持ち上げる。