円満破局
「帰ろう」
「あ、うん」
はるくんがそう言うのなら、きっと帰ってもふたりはなんとかなるんだろう。
こくりと頷いて鞄を受け取れば、満足げにはるくんが頬を緩ませる。
じゃあね、バイバイ、と目の前で交わされる挨拶。
その様子をわたしには関係のないことだとぼんやり眺めていると、
「西田さんも。また明日」
木原さんがわたしにも、はるくんに対する声と同じトーンで言ってくれる。
せっかく声をかけてくれたのに。
それなのに、元々甘い声を出すタイプじゃないからとわかっていても、彼女の淡々とした声にまぶたを伏せてしまう。
その声にはどんな感情が乗せられているのかな。
同じように聞こえても、わたしに向けられたものは、はるくんに対するものとは確実に違うはず。
ねぇ、普通のように見えても、木原さんも本当は釣り合わないって思ってる……?
「えっと、また、明日」
大好きな、本当に大好きなはるくんの隣。
そばにいるのが嬉しいと思うのに、どうしてもこわい。
ずっと欲しかったはるくんの彼女の座は、こんなにも苦しいものだったんだね。