奪うなら心を全部受け止めて
離さない。このまま帰さないと決めた。
佳織さんを抱き上げ、店の二階へ連れて行く事にした。抵抗はされない。大人しく抱かれている…。いいんだな。…俺は俺の思いで。
少し上がってヒールに気がついた。階段でヒールを脱がせた。
カンッ…、コンッ…階下に落ちて行った。
顕わになった足。傷ついている踵が痛々しかった。
二階は住居。プライベートルームだ。
誰も居ない、俺だけの部屋。
ベッドにそっと横たえた。
「佳織さん…、重くなるのが嫌なら、貴女は貴女の感情で…、いいように。遊びがいいというのなら遊びで、俺に抱かれてください。…それならいいですよね?」
「…啓司君、駄目…やっぱり駄目よ」
俺は首を振った。
「貴女は今夜、誰かに身をまかせたい…。そんな日なんでしょ?俺じゃない人とそうなるくらいなら、俺にしてください。貴女が他の誰かに抱かれるなんて嫌だ。…嫌なんです。考えたくもない。
だから俺を遊び相手に…。嫌ですか?俺では…」
「…啓司君、気持ちを聞いてしまったから……貴方を傷つけてしまう。でも…、何も考えられないくらい…抱いて欲しい…。こんなずるい私を抱いてくれる?…」
佳織さん、まだ迷ってる。
「勿論。お互い後悔はなしです」
口づけながら互いの服を脱がし合った。
沸き上がる激しい思いのままに佳織さんの身体を求めた。
満たされないモノを満たす、逃れられない哀しみから…逃げるように…求められた。
「はぁ…、佳織さん」
「佳織で…いい…」
「…佳織」
…泣いて、いる。向き合い抱き合う俺の肩に…涙が落ちるのが解った。
「啓司君…」
「…佳織、…あぁ…佳織さん…」
好きだ。…苦しい。
貴女の心はここには無い。
俺は抜け殻を抱いている…それは解っている。
何度も何度も抱いた。
壊して終うんじゃないかと思うくらい…欲望のまま抱き続けた。
抱き合ったまま眠った。
朝、腕の中に佳織さんは居ないかも知れないと思った。
スヤスヤと無邪気な子供の顔で眠る姿に、ホッと息を吐いた。
一晩の熱が冷めた今、胸が…痛い。
綺麗な身体に沢山アトを残してしまった…。
抱きしめたら起こしてしまうだろう。
でも、そうせざるを得ない衝動があった。
無邪気な無防備さに…ギュッと抱きしめ囁いた。
「佳織さん…」
「ん…ん…。啓、司君?…あ、さ?…」
「…はい、はぁ、朝になりました」
瞼に口づけた。
「…まだ早いです。眠ってください。…起こしたのは俺なんですけど」
頭に口づけた。
「う…ん。……。…啓、司君、有難う…ごめん、ね…ごめん、あり、が、と、…ごめん、ね…。ご…めん、…ね」
有難うが、ごめんねの言葉が切な過ぎて…。
切ないのは俺自身か…。こんなに沢山謝られてしまうと……罪は俺にある。
ゆっくりと再び眠りに堕ちていく佳織さんを抱きしめた。
多分、これが最後。
最初で最後の…一度きりの関係だ。