奪うなら心を全部受け止めて
言葉通り。
佳織ちゃんが眠る迄、そんなに時間はかからなかった。
暗い部屋の中。テレビの明かりが並んで座る二人の顔を照らしていた。
掛け布団、持って来ておいて良かった。
佳織ちゃんは俺にもたれて眠っている。
ボリュームは下げていた。殆ど聞こえないくらいに。そうしておかないと、爆発音など不意に大きな音になるからだ。
…ストーリーも何も、…ちゃんと観ようとしてないから、俺もよく解らない。
…もう、このまま寝てしまおうか…。
運べない訳じゃない。何だか、俺も寂しいのかな。こうして、触れている事に安堵感がある。
正直に言えば、人肌が恋しいのだろう。…間違いない。
人は一人でも寂しくないけど、一人じゃないと解った途端寂しさを覚えてしまう。
一人になることへの寂しさ。
優朔、許してくれよ…。何もしないから。
佳織ちゃんと少しの間こうして居させてくれ。
…今日だけだ。…朝迄だけだ。
俺にも愛しい人と居る擬似体験をさせてくれ。…何もしないから。
自分に言い聞かせるように思いを巡らせながら、佳織ちゃんを抱き寄せ、頭を肩にしっかりと乗せた。
髪を撫でる。…同じ香りがする。…当たり前だな。ボディソープだって、使った物はどれも同じなんだから。
丸くて柔らかい肩だ…。
スースーと眠る息が微かにかかる。少し温かい息が俺の首を掠め続ける。
迷いもなく頭にキスをした。
…このくらいは、許容範囲だ、…にしといてくれ。
…解ってるから。
この人は優朔の大事な人で、俺は…護らないといけない人だから。
俺と過ごす事で少しでも気が紛れるなら、いくらでも…。ご飯でも、ドライブでも、気の済むまでつき合うから。