奪うなら心を全部受け止めて
・カムフラージュをカムフラージュ?
・佳織16歳
「…やっぱ…寂しいだろ?」
窓際に立つ佳織は遠くを見ていた。
「………え?」
「ごめん…。聞くことじゃないのに。これからは、…見掛けて目で追うことも出来なくなる…。敢えて言う事じゃないな…、ごめん…デリカシーがなかった」
「昨夜…、沢山泣きました。…式の最中、…先輩を見て、やっぱり泣いちゃいけないのかなと思って。先輩に目線を送ってもいけないかなって…」
「…卒業式なんだから、…泣いていいんだよ。
…誰を思って泣いてるなんて解んないんだし…」
「…千景さん……」
「千景…だろ?もう、式も終わったし…。我慢しなくても…。泣きたいだろ?いいよ…」
「ごめんなさい…、千景さん」
俺の腕の中に遠慮気味に入り込み、声を殺して佳織が泣いている。
今日は先輩と会わないのだろうか…。
俺には連絡が来ていないから、いつも通り…佳織と帰るって事でいいんだよな…。こんな日なのに。…いいのか。
「佳織、今日も一緒に帰るか?」
確認のつもりで聞いた。
「はい。一緒に帰ります」
…いいんだな、俺とで…。
「そうか…」
ワシャワシャとわざと佳織の髪を乱した。
「じゃあボチボチ帰るとするか…もう、涙は大丈夫か?」
涙は止まっても、…心まではな…。心はまだ、涙流れてるだろう。はぁ…。
体を離して、今度は直すつもりで指を通しながら髪を撫でた。
佳織は少しだけ顔を上げた。
俺の首元を見るくらいにしか上げない。
「…はい」
笑顔を作りながら頬の涙を拭っている。
カムフラージュでつき合ってる同士のこのシチュエーションは、今日の日に何だか合わない気がした。
どちらかが卒業する別れでもない。
泣いている下級生の女子を慰めている…俺。
カムフラージュの俺の彼女は、何故泣いているんだろう。…誰を思って泣いているんだろうって。
事情を知らない人は思ってしまうだろう…。