奪うなら心を全部受け止めて
俺の教室。
窓際で二人佇んでいた。
気がついたショウが下から手を振っている。軽く振り返した。
この作戦が始まってから、あいつと帰る事もめっきり減った。今は仕方ない。
俺と佳織がつき合ってる事を印象付ける為だから。
「せ〜ん。俺、先、帰るぞ〜」
「おお」
「ヒュ〜。佳織ちゃ〜ん、千とよろしく〜」
…あいつ。誇張し過ぎだろ、いつもいつも…。
まあ、ショウの言動に助けられてる部分は大いにあるけど。
お陰で今ではすっかり俺と佳織は“公認"の仲だし。ある意味一番の功労者なのかも知れない。
「佳織、帰ろう」
まだ乾き切らない頬に触れ、手を繋いだ。
手を繋ぐ事には佳織も何の戸惑いもなくなっていた。これはつき合っている当然の行為だから…。
「はい…。え?あの…千景さん?」
繋いだ手を引っぱって抱きしめていた。何だかそうしたかったからだ。
自分でも自分が解らない。
仮想が過ぎたのか…。演出なのか…それとも俺自身の気持ちからか…。
今日が特別な日だから、変な作用が働いて終ったのだろうか。今更だけど、佳織の泣き顔にだろうか…。
「あ、あの…千景さん?」
「あぁ、あ、ごめん。ショウがあんな事言って帰ったから…つい、…やり過ぎたな。ごめん」
なんて答えたらいいかなんて、思う間もなく、口が勝手に言い訳をしていた。
「あ、はい。…そうですよね。…びっくりしました。ちょっと、びっくりしただけです。大丈夫です」
ドキドキ…、ドキドキ…。心臓、早く鎮まって。び、びっくりしたぁ。…カムフラージュの延長だと思っても、…抱きしめられることはドキドキする。…びっくりしたぁ。
「ん」
千景から改めて手を繋いだ。
「…はい」
何だかドキドキしたままって、変。
繋ぐ事に慣れてたのに…。