奪うなら心を全部受け止めて


「春休み、先輩とデートあるだろ?」

佳織が首を振る。

「まだ…何も。解りません」

「そっか…」

頭を撫でた。というより、ポンポンとした。聞くんじゃなかったと後悔したけど、聞いたものはもう仕方ない。

「…住むところの手続きとか色々とあるだろうし。まだ具体的な連絡、何もないです」

「じゃあ俺とデートするか…。先輩のが決まったらドタキャンするの前提で。全然平気だし。
遊園地行くか?映画でも観に行くか?
春休みになったら俺らも時間あるじゃん。ていうか、俺、このカムフラージュ作戦、先輩から解除されるまでは佳織と、…その…ずっと恋人って訳だし。
恋人なら、春休みはやっぱ、デートもするだろ?当たり前だけど、つき合いも段々長くなって来てる訳だし。アレンジパターンも必要だろ?」

「そう、ですね」

「だからさ。映画とか行こう?春休みなんて、あっという間に終わるし。それに勉強しなくていいし」

「はい」

「やっぱ、あれ?佳織は女子だから、映画も恋愛物がいいの?」

「あ、別に恋愛物とかでなくても…アニメとか、どうです?結構ストーリーもしっかりしてるから、感動しますよ?」

「おお、アニメなら寝ないでいられるかも」

「ぇえ?恋愛物とか気にして聞いたのは、その心配だったんですか?」

「…まあ、な」

恋愛物はシーンによったら気まずいだろ…。女子となんて観てられないだろ。

「クスクス。別に寝ちゃっても平気ですよ?
あー、いびきが煩くなければですよ?
私、気にしませんから寝ちゃっても。大丈夫ですよ」

「本当に大丈夫?だったら映画行こう。
観たいのは佳織が決めていいから。恋愛物でも別にいいから」

「それって…初めから、寝る気満々じゃないですか…」

「あ…そんな事は、ない」

「いいです、いいです。行きましょ?」

「おお。おぉ果林ちゃんと直人、呼んでもいいぞ?」

「いいえ。格好いい千景さんの失態を二人に見せる訳にはいかないから。…直人君を失望させちゃうかも知れないし。それに…もしドタキャンになった時、二人に何だか悪いし」

「あ、そうだな、そうだった。
じゃあ、二人だけで行くって事でいいか?」

「はい。それが無難でいいです」
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