奪うなら心を全部受け止めて
・遣る瀬ない…逃がしたくない
・千景38歳、佳織37歳
もう…無理だ…。
佳織、…このままにしておきたくない。
カラン……。
「いらっしゃいませ。…千景さ、ん、どうしたんです?…こんなに遅く…。…もう、しまうところですが。いいですよ」
「……」
「先に掛けてて貰えますか?Closedの札、掛けて来ますから…どうぞ」
「…いや。…直ぐ帰る」
「え?…飲まないんですか?」
「ああ」
「じゃあ、なんで…。一杯くらい飲むでしょ?大丈夫ですよ?千景さんだから…」
「…連れて帰る」
「え?」
「佳織を連れて帰る」
カウンターで眠る佳織に目線を送った。
「…え、…佳織って…。やっぱり…知り合いだったんですか?」
…そんな、…。
「ああ。…もう随分と長いつき合いだ」
…つき合いって?なんだ?どんな…長いっていつから?…。
「…でも、…お客さんですし」
送るなら俺が送る。…起こしたらしゃんとするんだし、いつも大丈夫なんだ…。
「啓司の…店にとってはお客でも、俺達は知り合いだ。何の問題もない」
「いや…でも…」
「なんだ?嘘を言ってるとでも?それとも俺が連れ出したらマズイのか?…啓司…どうなんだ」
つぅっ…。俺の心なんて簡単に読まれてる。
顔にも態度にも…出てる。
俺、千景さんの目力に…動揺し過ぎだ。