奪うなら心を全部受け止めて
「佳織、佳織…起きろ…佳織」
「あ、千景さん…」
止めようにももう佳織さんの肩を揺さぶっている。
「起きろ、佳織。帰るぞ」
「ちょっと、千景さん…」
「ん、ん…。啓、司、君…。…送ってくれなくても帰れるから。大丈夫。………え…千景?」
ムクッと顔を上げた佳織は、焦点を合わせようと、ジッと見据えた。
「…千景?……千景なの?」
「ああ…そうだ。起きたか?…そうやって見つめる癖、止めた方がいい。相手が、…男が勘違いする元だ。さあ、帰るぞ」
「ちょ、ちょっと、待って。どうして?何故?…どうして居るの?なんで千景と帰らなきゃいけないの?」
「質問が多い。つべこべ言わず、いいから、帰るぞ。あ、一つだけ答えてやる。俺はずっと前からこの店の常連だ」
「う、そ…」
「つまんない嘘なんかついてどうする。帰るぞ」
「嫌。…一緒になんて帰らない」
「はぁ…。嫌でもいいから、とにかく一緒に帰ってくれ」
話がある。聞きたい事、確認したい事があるんだ。このままにしたら、お前は壊れる…。
「嫌、大丈夫。大丈夫だから」
「…だから、なにが大丈夫なんだ。大丈夫じゃないだろうが。…佳織」
「あの、佳織さんなら、そんなに酔ってなんかないですよ…」
「そういうことじゃないんだ。佳織、さあ」
「嫌。大丈夫…。大丈夫って言ってるんだから、大丈夫」
「ふぅ。…そうやって、限界まで堪えるのか?
もう、いい加減辛いんじゃないのか?…」
「千景さん…」
俺の存在はまるで無視だな。
「…啓司君と、…帰るなら、…啓司君と帰るから。それなら心配ないでしょ?」
そういう事じゃない。解っててそんな言い訳を…。