奪うなら心を全部受け止めて
「…ごめんなさい。だから私も思ったのよ?私だって…恥ずかしいから。
でもね、…恥ずかしくても恥ずかしい成りに、啓司君になら、そのままの気持ちを話せばいいかなって、何だか思っちゃったの。
もう、こんな話をするもんじゃないから、会わない方がいいんだけどね。…綺麗に立ち去るのが、こういう場合の常識よね…。もう、繰り返し掘り下げて話す事ではないわね。……でも、有難う。啓司君で良かった。ああ…、この言葉だけををメモに残して消えてたら、格好いい、いい女で良かったのよね…もう、駄目ね。いい女を演じる詰めが甘いわね」
「クスクス。
もう、流石って言っていいかどうか解りませんが、流石、佳織さんだ。
俺はこんな経験がないから解りませんが、そうですね…多分そうするんじゃないかと思ったから、俺は逃げてました。
なのに、…帰ったら居るんですから…拍子抜けですよ。もう、止め止め。この話は止めです」
俺の思い、恋は始まらない。
「…そうしましょう」
……。
「ほらね?やっぱり気まずいでしょ?」
「はい…。帰ってなくてごめんなさい」
……。
「アハハッ。やっぱり佳織さんだ」
「…フフフ。…ごめんね」
私…ちゃんと笑えてるかしら。
啓司君に気を遣わせないように…出来てるかしら。後悔してるなんて…感づかせてはいけない。何度も傷つけてしまう事になる。
「…またカクテル飲みに来てください。俺は大丈夫。顔合わせても大丈夫ですから。佳織さんさえ嫌でなければ」
「…有難う。また来ます。来れるわ。その為に居たんだから。…ごめんね」
「いつでも、待ってます」
「珈琲、ごちそうさまでした」
「佳織さん?帰る場所、解ります?」
「…フフフ。解ります。…夜じゃないから」
家には帰らない。…マンションへ行こう。
気配を…匂いを感じに…行こう。
この心を虚しく埋める為に。