奪うなら心を全部受け止めて
始まった葛藤
・俺次第
・千景 高校3年生
あ、居た、居た。
中庭からグラウンドに下りる短い階段。広い背中をこちらに、座っていた。
シャツの首元をパタパタさせながら、サッカー部の練習を見ている。
そーっと近づいてみる。気がつかないようだ。
「…千、景」
後ろから腕を回しギュッと抱き着いた。
「は?ばっ、…びっくりしたぁ……おい、暑い、止めろ」
「…そんなぁ。酷い。久し振りなのに…」
「久し振りも何も…離れろ」
「つれないな、千景ちゅわん。久し振りの二人きりなのにさ」
「それとこれは別だろうが。もう、暑い、暑苦しい」
「ちぇっ。まあ、放してやるか。少しは千景ちゅわん堪能出来たし」
「……」
「今日は一緒じゃないんだな」
隣に腰を降ろしながら聞いた。
「ああ。誕生日だからな」
「あ、…そうか、成る程ね、誕生日か…めでたいな。だけど、そんな日だからこそ、千と居ないとおかしくないか?」
「そうでもないだろ…。当日の動向を見張ってるやつが居る訳じゃないし」
「そうか、…そうだな。あのさ…何だか、盗られた気になってないか?」
直球の質問。
「…は?俺がか?そんな気にはならないよ」
「ふ〜ん。そんなもんなんだ。俺だったらちょっと寂しいかもな〜」
…誘い玉。
「…今更だけどさぁ。いつも一緒に帰ってたりしてるとさ、麻痺しそうじゃん。
本当は自分ら、つき合ってんじゃないの、ってね。頭が誤作動しそうだ。
俺だったらとうに、完全、偽りのない、好きになってるね…」
どうだ。ん?
「ならないよ」