奪うなら心を全部受け止めて

「あまり言ってはいけませんが、会いたい人が居ると」

「ここで?約束してなかったんだ。...会えなかったのか...」

「え、なんで…」

「啓司の話し方なら解るさ。それに一人で帰ってただろ?喧嘩でもしない限り、会えば二人一緒に店を出るだろ?用でもない限り」

鋭い、と言うか、人の話をちゃんと聞いてるよな。一言一句聞き逃さないし。

「で、また来るんだ」

「...はい。会えるまで、だそうです」

あっ、ゔゔ〜。なんでも答えてしまいそうだ、俺。

「会いたいのは女、...じゃないな。男だ」

「らしいです」

あ、ゔゔ〜、また言ってしまった...。

「ふ〜ん。余程会いたいんだな」

「...みたいです。初めていらした人ですから名前も知らないですし、勿論、相手の人の事も聞いてないですが。...ああ。多分いい男だって、言ってました、相手の人の事を。
まさかとは思いますが、会いたい人って千景さんだったりして。そんなこと、ないですかね」

「俺に会いたいなら、直接連絡取って来るだろ。探す相手の事は多少なりとも調べているだろ」

「そうですよね。あ、仕事絡み。ヘッドハンティングだったりして。男性もスーツだったし」

「ないな。一般的な可能性としてはある話だが、今回それはないな。
企業が欲しいのは、優秀な、わ、か、い、人材だ。例え俺を優秀だと判断してくれたとしても、俺はもうおっさんだ。有り得ない」

「うう〜ん。今のところ、会いたい人はいい男、しか手掛かりがないのがなんとも...、それが見掛けなのか、内面を指してなのか、そこも定かではないですし。
トータルでいい男なら、やっぱり千景さんですよ。俺の目に狂いはないと思います。
この店を利用してるのを知ってて来た訳だし」

会いたい男を待つ男。当て嵌まる男に心当たりがない訳じゃないが。
だとしたら、啓司の言う印象と少しイメージが違う気がした。
俺の心当たりの人なら、今は簡単に単独行動する事は難しくなっているはず。そんな立場の人だ。
中には、お忍びで自由奔放に行動する人も居るが、あの人はきっちりしている。ちゃんとした人は周りを心配させる行動はしない。

つまり、高木先輩ではないという事だ。
あくまで想像からの消去法だが。
では、誰だ...。
ここの常連の男に会いたいという男...。
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