奪うなら心を全部受け止めて
翌週の金曜日。
仕事をしている者にとって、寛ぐ気持ちになりたい、なれるのは週末だと思う。
年齢からして、翌日が辛くなるような飲み方はもうしないだろう。
だけど、翌日休みだという保証は、あった方がより楽だ。
故に、他の曜日は捨てた。金曜のみ、来てみる事にした。闇雲に他の曜日まで通っては、俺がきついのもあるからだ。
なるべく閉店前に来るようにする。常連は少し話をして、一杯飲んでサッと帰る。
そんなイメージだからだ。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ。ようこそいらしてくださいました」
相変わらず人の懐にスッと入り込んで来る、人懐っこくて甘い顔だな。
「スコッチをストレートで」
「はい、畏まりました」
「…どうぞ」
ショットグラスに注がれたそれは深い琥珀色。
チェイサーをそっと出す。
「有難う。ん、バランタイン?…いい香りだ」
「はい。実は頂き物なんですが。誰かに召し上がって頂きたくて。ですからこれは料金は頂きません。お客様はお酒にお詳しいようでしたので。そんな方に召し上がって頂いた方がよろしいかと思いまして。どうぞ」
初めて来られた時、シェリートニックをオーダーされた。きっとお酒は色々嗜んでいるはず。
「開けちゃったんだ。いいのかな…、俺なんかに。…17年くらいかな、これ、この感じ…」
「はい」
くぅー。流石。正解。
「また、いらしてくださった時に召し上がって頂ければ本望です」
「君は向いているね」
「え」
「こういった接客業に。決して作りモノではない。生まれ持ったサービス精神とでも言うのかな、掌握…人の心を掴む事に長けている。容姿も含め」
「は、は、い?あ、有難うございます!」
「そういうところが感じがいいのかな…。
嘘がなくてストレートで…そのまんまなんだよね、きっと。
俺のために開けてくれたなんて聞いたら、来ないわけにはいかなくなる」