奪うなら心を全部受け止めて


はぁ。嬉しい。大人になっても、これだけ持ち上げられたら嬉しい。

「有難うございます。でも、そんなつもりで開けたのではありませんから、来られなくなっても、それはそれで、です」

「バランタインを開けて貰ったからといって、機嫌とりに煽てている訳ではないからね。そこは本当の事を言ったまでだ」

「有難うございます。あの…」

あー、いや、どうしようか。んー。
特に俺に、該当する人の事、尋ねられた訳じゃないけど。…でも、多分、絶対、間違いなく、100%、この人が会いたい人は千景さんだ。だけど…。

「何も言わない方がいい。…顔に出てる。君は人がいいな。
大事なお客さんの事は言わない事だ。例え心当たりがあってもね。それを聞き出したくて話をしてる訳ではない。
こういったお店は、お客さんとの信頼関係で成り立つものだろ?だから、飲むし、話す。
それはここだから、の事だろ?
俺は…、そうだな。
バランタインがなくなる迄、気長に来店させて貰う事にするよ。
勿論、対価として、他のモノを沢山飲ませて貰うよ。俺は会えるまで待つからいいんだ。だから心当たりがあっても話してはいけない」

はぁ、なんでもお見通しだ。話さなくて正解だった。そうだ、うっかりなんて有り得ない。信用をなくすところだった。

「でも、有難う。少なくとも君と親しいんだという事は情報として頂いた。俺に話そうとしてくれたくらいだろ?…もの凄く親しい人物という事だ。
そして間違いなく、その彼が俺が会いたい人物だ」

ゔ〜。なんだろう。この人といい、千景さんといい。
あっさり負けを認めるしかない…。

「…惚れた弱みです。あ、いや、男としてです。
貴方のような男らしい人、惚れてしまいました」

「は、ハハ…君にどう見えているのか解らないが、所詮男なんて張りぼてだよ。高い理想を掲げて…。少しでもなりたい男に近づきたくて、中身はジタバタ足掻いているだけだ。良く見えているとするなら、それは見せかけだよ。
…一生、まだまだ、未熟者だよ、俺はね」

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