奪うなら心を全部受け止めて


「松下さん。失礼ですが、貴方の行きつけのお店はありますか?
話をしても貴方が差し支えない店です」

「どうやら、お互い、行きつけではない店が都合良さそうだ。
そうですよね?」

「出来れば」

こちらの意図は察しているようだな。…流石だ。
ならば話は早い。

「では、…改めさせて頂いても宜しいですか?
今夜はお互い挨拶程度という事で」

スーツの上着。内ポケットに手を入れ小さい手帳を取り出し走り書く。
ビッと切り離し渡す。

「今回の事は、あくまで私個人のプライベートな事。この事は高木は知らない。
名刺はお渡ししませんので、番号のみ記入しています。
構わない時にご連絡を頂けますか?」

「解りました。
先輩に関する事ですか?」

念押しか?…。そこは確かめておきたいのか?

「いいえ。…仲城さんの事、と言った方がいいかな。
では、また。
ご連絡をお待ちしております」

「はい」

「ご馳走様。また改めて来させて貰うよ」

「あ、有難うございました」


近かった。従兄弟か…。
従兄弟の男が俺になんの興味がある…。

あの感じでは、血縁でもあるが、仕事でも高木先輩の近い位置に居そうだな。

似ている。従兄弟でも、こんなに似るものか?

背格好も雰囲気も。
まるで兄弟のようだ。
年齢も近そうだ。

「あ、千景さん?」

「あ?あぁ。あの人か?そうだよな?人を探していたって人。
そして、その相手は…俺だった」

「…はい。あの、俺は何も言ってないですからね?
あの人が鋭いだけです」

「ん?ああ。別に何も思っちゃいない。
心配しなくていい。勘繰るな」

はぁ。ちょっとピリッとしたモノが千景さんからあの人に走った気がしたけど…。

ここでは話せないって事だよな。…行きつけではない店で、…そう言った。

千景さんが敬遠した。
俺には聞かれたくない話、か。

必要でない事は聞かない話さない。それで充分成り立つ付き合い。

実際、千景さんの事だって、俺なんか知らない部分ばかりだろう。

長い付き合いでも必要ない事は聞かない。
商売上でもあり、俺としてもそれでいい。

ミステリアスな部分も魅力なのだ。

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