奪うなら心を全部受け止めて
RRRRR…。
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出会いから何日と空けず連絡は来た。気になるのだろう。
当たり前だ。
俺だってあんな出会いをして、そのまま長く空けるなんて無理だ。
「はい、松下です」
「仲城です。今大丈夫でしょうか」
「はい。構いません」
「突然で申し訳ないのですが、今夜、どうでしょうか」
「はい。大丈夫です」
「私は飛び込みで、込み入った話ができるような場所を知らない。
利用するとどうしても顔見知りになってしまって」
「それは大丈夫です。
お願いしたのは私ですから、こちらで場所は手配します。
後で住所、店名をこの番号にメールします。
お時間は何時なら大丈夫ですか?」
「お店の都合は?松下さんの都合は」
「大丈夫です」
「では、遅くて申し訳ないのですが、21時頃で、お願い出来ればと思います」
「解りました。店で私の名前を告げてください」
「解りました。では」
「はい。後ほど」
ここか?…。
住所だとここだが、看板が無い。
…合ってるよな。
しかし、よくこんな所、見つけられたものだ。
格子戸をくぐり、離れのような建物へと進む。
鹿威し、濃い緑の苔に覆われた庭石。
楓、深緑の葉は椿、艶のある木は百日紅か、小さな池もある。
古民家のような造りだ。
「あの、松下さんとのお約束で伺いました」
頷くと、こちらへどうぞと案内された。
「お連れの方、お見えになられました」
声をかけて障子に手をかけた。
「やあ、さあ入ってください。
早速料理を運んでください」
「畏まりました」
「どうぞ、座ってください。
和室はしんどいですから脚はお互い崩しましょう」
「あの、ここは」
「ああ、灯台下暗しでした。
どこにしようかと色々考えていたら…、ここがいいかと。
…身内の店ですが大丈夫です」
「そうでしたか」
「名前も出してないような、まあ、今時で言う、隠れ家的な店でしょうか。
申し訳ない、看板が無い事、私もうっかりしていて、解りづらかったですよね」