奪うなら心を全部受け止めて
「…最悪の出会いです。
ここでこう言ってしまうと、もうその時から私的な気持ちが入ってしまったとバレてしまいますね。
…優朔の父親の依頼で、佳織さんを迎えにあがりました。政略結婚の事、そして愛人の話をする為です。
話される内容は私も知っていましたから。
何も知らない無垢なお嬢さんをお連れするのはそれだけでも辛かった。
…仕事です。私は優朔の父親の秘書でしたから」
「貴方は秘書をされているのですね」
「はい。今は優朔の秘書です。
佳織さんの受けたショック、傷つきようは、…想像して頂ければ解りますよね。これから起こることです。慰めようもなかった。
何も考えられないほどショックを受けていました。私に出来たのはただ泣かせてあげる事だけでした。
…泣き止むまで一緒に居ました。泣き疲れて眠るまで。側に居ました。
それ以来のつき合いです。
優朔の秘書としてというより、従兄弟として、兄のように関わっています。放っておけないからです。
佳織さんは私にとって、そういう人です」
「…同じです。私も放っておけないからです。
最初から穏やかな気持ちでいた訳ではありません。初めは貴方が言うように、もっと…違った。若かったから。
見守るか…。
何か起きる度に佳織が傷ついているんじゃないかって、…放っておけないんです。
もう子供じゃないのに。
再び会うようになったのは、結婚を期に愛人になると佳織が決めた頃からです。
会わない時があっても、住んでいる場所を知らなくても、連絡先は解っていました。
番号もアドレスも変えない約束だったから。
あの店では会った事はありません。
俺のテリトリーに先輩の大事な人を入れてはいけないと何処かで思っていたからです。
カムフラージュは自動解除されたと思っていても、やはりどこか捕われている。
コソコソしてると思われているんじゃないかと。
ただこれは憶測ですが、俺に会った事は多分、佳織は先輩に全て話しています。
言われた事はないですけど。
あの二人は本当に純粋に相思相愛なんです。
あの頃からずっと。
今なら自分の事が解ります。好きをぶつけたかった年頃だった事。
葛藤しかなかった。…どんなに好きだと伝えてたとしても隙はなかった。
だから、誤魔化し続けた。
…本当に好きだった。勿論、今でもです」