奪うなら心を全部受け止めて
思えば俺の恋心は初めから負けていたのかも知れない。勝ち負けとは思いたくないが、負けていたんだ。
完敗だったんだ。入り込める隙間なんて1ミリも無かった。二人は思い合っているんだから。
冷静に考えたら俺のしていた事はただの悪あがきじゃないか。
無理に好きを押し付けようとしていただけだ。…子供だ。
先輩は流石だった。欲しいモノは手に入れたい。…何をしても。
ずるいと思われようが卑怯と言われようが、不安要素は排除しておく。手を出せないように…先手を打っておく。完璧だ。
傍目にそうは見えなくても、心では牽制しておいたんだ。
好きなら、伝えたら、どうにかなるんじゃないかって思っていた。
ぶつけ方を間違えたのか?…中途半端に誤魔化しながらだったから。
気がついてくれたらいいのに…気がついて、好きになってくれたらいいのにと、相手に期待した。
俺の行為は疑問を抱かせるばかりだった。
肝心な事を言っていない。
本気なんだって。これは本気の言葉だと。
本気のキスだと。本気の心で抱きしめていると、俺のしている事はカムフラージュの為なんかじゃない。
全部が本気なんだと、最後まで言えなかった。
暴走したのは好きだという気持ちだけ。それしかなかった。
若い頃は明確に解っているモノが全てで、見えてるモノだって極端に狭い。
好きという感情は他を見えなくさせる。
今なら解る事もまるで解っていなかった。
大人には、大人なりの愛しかたがある。
それが出来るようになったんだ。
欲しい、求めるだけの好きじゃない。
思春期は思春期なりの好き。
大人には大人だからの好きの在り方。
薄れた訳じゃない。ずっと好きなんだ。
それは変わらない。