奪うなら心を全部受け止めて
・Anniversaryは心で
・佳織26歳
先にこの部屋に入るのはいつも佳織。
…今日ここに来た佳織はどう思うかな。喜んで、そして…やっぱり寂しくなるのだろう。
花束を置く。綺麗にラッピングされた小さい箱を置く。四角い大きな箱を置く。…そしてメッセージ…カード。
今日は早めに連絡が来た。…いつものことだといえばいつものことだ。
妻が夫に帰って来て欲しいと言えば、帰るのは当たり前。……当たり前。一般的に当たり前の事。
『どうした?急に具合でも悪くなったのか?』
『何か買って来て欲しいモノでも出来たのか?』
『一緒に食事がしたい?』
一般的に突然の電話にも色々ある事だろう。
具体的には言わない。帰ってみたところで急な用でもない。
それは確かめるまでもなく、初めから解っている事ではある。
だが、帰って来て欲しいと言われたら帰る。…夫だから。それは出来ないとは言わない。…夫だから。
もし、出来ないと言うなら、理由は…好きな人と居るからだ。
だから、帰れないとは言わない。
帰る事は俺の夫としての義務だと思っているから。…義務だ。
この結婚も言わば一つの縁だ。
運命に翻弄される訳にはいかない。自分の意思で夫として誠実に努める。まだこの先…長い一生の事だ。結婚生活は始まったばっかりだ。愛はなくても、信頼は持っていたい。相手の事も信じたい。それは、人として、共に家庭を築く相手として、なくてはならないモノだと思う。
このままでは…この先、薄れていってしまうのだろうか。始まったばかり…。こんな事をするのは何故だ。
単純に嫉妬なのだろうか…。俺の動向が気になるのか。それとも全てにおいて許せないのか。愛人と会っているから。