奪うなら心を全部受け止めて
大切な日は祝えない。一緒に過ごせない。
解っている。
俺の手帳も見ていることだろう。
敢えて暗号にもしない。隠す事もしない。
佳織の誕生日は佳織と書いてある。
こんな一つ一つを認めて飲み込んで欲しいと思っているからだ。そういう気持ちになって貰いたい。それが俺達の結婚の在り方だから。
『佳織、誕生日おめでとう。
ごめん、家に帰らないといけない。今日は顔さえ見られない。
気に入って貰えるかなぁ…。佳織が好きな色のイヤリングだよ。次会った時、俺に付けさせてくれるかな?
それまでなくさないでくれよ? 優朔』
本音は書けない。
会いたい。顔が見たかった。見たいに決まってる。
直接おめでとうと言いたかった。抱きしめたかった。一緒に過ごしたかった。
佳織の喜ぶ顔が見たかった。
戯けてみせるしかない。暗い気持ちにさせたくない。
今日は金曜日。
脱力した佳織は、明日の朝、起きないかも知れない。楽しみにしていた誕生日だったのに。
来てみたら俺は来ないなんて。
そんなメッセージ、欲しい訳がない。
ドッキリかも知れないなんて、初めは思うかも知れない。
がっかりさせておいて、本当は何もなかった顔で現れる、…なんて。沢山喜ばせたいから、こんなことをして、…なんて。
そんな事ができればいいな…。