奪うなら心を全部受け止めて


カチャ…。
…居た。良かった。やっぱりまだ居た。
まだ、朝早い。夜明け前というより夜中に近い。
まさか翌日、俺が来るとは思ってないだろう。
俺もここに来れたなんて、こっちがドッキリだ。
佳織、…これは昨夜からのドッキリではない。

足を忍ばせる。
寝室か?…リビングかな?

…居た。やっぱりリビングだ。
……ソファーで眠っている。……ごめんな。

近づいてみる。
帰って来たまま…横になったんだな…。
頬にそっと触れてみる。

「佳織…」

腰を下ろし、耳に唇を寄せ声を潜めて呼んでみる。髪を撫でた。

う、ん………ん。
体をずらして体勢を変えようとする。

「佳織…おはよう」

覆いかぶさり腕を回して抱きしめた。

「んん…、っ、な、に…、嫌っ、嫌ーっ!」

突然の事に、バタバタ暴れる。抵抗して当然だ。更に強く抱きしめた。

「シーッ!シー……佳織、俺だ、俺。優朔だ」

佳織の口を塞ぐ。解ったと言うように頷いた。
どうやら理解出来たみたいだ。
塞いでいた手をどけた。

「ゆ、優朔…あ、…優朔…」

「…びっくりしただろ」

両手を着いた格好で見つめた。

「うん。うん、…馬鹿ぁ、変質者に襲われたかと思った。…馬鹿。もう…」

俺だと解ってホッとしたのだろう、首に手を回し、抱き着いて来た。

「誕生日おめでとう。昨日になったけど。
今日…午前中一緒に居られる」

「え…どうして?…本当に?何故居るの?」

支離滅裂だ。

「ああ。ん〜、能が言うには、俺は急に今日ゴルフに行ったらしい、よ?だから本当。一緒に居られるんだ。
ちゃんとベッドで寝よう?…馬鹿だな、箱も開けてないのか?」

「だって…開けたら哀しくなりそうだったから…」

「…ほら、開けてごらん?」

「うん。………これ…。覚えててくれたの?嬉しい!嬉しい優朔。…有難う」

「付けてみる?貸して。どうかな。よっこいしょ」

優朔の膝の上に横抱きにされた。

「綺麗だ。よく似合ってる」

「本当?見たい」

「よし」

そのまま抱き上げられて寝室に運ばれた。
鏡の前、抱えたまま映る姿。

「見えた?似合ってるだろ?」

「…うん。綺麗。有難う」

「よし。寝よう」

「ぇえー?!」

ベッドに下ろされた。

「貴重な時間。一分一秒でも多く佳織を…俺にくれ。睡眠は後回しだ」
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