奪うなら心を全部受け止めて
俺らは綺麗に並べられたパイプ椅子の間を進み、自分達の席に座った。隣同士だ。
「おお、千にショウ。おせーんだよお前ら。ドクにシバかれてやんの。ウケるんですけど」
「あほ。うるせーよ。余裕でセーフじゃんかよ。あれはわざとだよ。テメーこそ、“一緒に行こうショウ君"って、女子みたいに可愛く誘うくらいの事、出来ねぇのか、ぁあ?」
「はぁあ?女子でもない、可愛くもないテメーなんか誘うかっつうの。けっ。な、千」
「まあ、西邑も、もういいだろ?ドク、こっち見てパクパク何か言ってるぞ?今度は西邑がやられるぞ」
「ヤベッ、大人しくしとこ」
千(せん)と呼ばれている俺は仲城千景(ナカジョウチカゲ)。
千景なんて名前、女の子みたいであまり好きじゃないけど、誤解される事で反ってすぐ名前を覚えられる。
じいちゃんが死ぬ前に教えてくれた事だけど、命名したのはワシだって。
昔、好きだった女の子に似てたからって…。いや、そんなって話だよ。俺にしてみたら突っ込みどころ満載なんだ…。
まず、俺、女子じゃないし。
生まれたての赤ん坊に似てる女の子って…て微妙だと思うし。しかも、綺麗な顔した子だったって言うし。矛盾してるような話だよな…。
想像ついたのかなぁ?将来の俺の顔なんて…。
おまけに決まり文句だ。
『この事はばあさんには内緒だぞ』なんて…。ばあちゃんが昔のことを知ってたらまずいだろってことだ。
どうせなら話してくれなくても良かったような気もするんだけど…。
墓場まで持ってってくれた方が良かったかもだよ、じいちゃん…。
ショウは中橋翔吾。
一年から一緒で、二年になったクラス替えでもまた一緒になった。これで三年になっても一緒なら、もう…ほぼ腐れ縁だな。
アイドルみたいな顔をしていて話し好きだ。
クラスに一人は居る、所謂人気者ってタイプだな。
因みに、さっき俺らをシバいた先生。俺らの親世代なら知ってる、洋画に出てた俳優にそっくりらしい。いつも白衣を羽織っている、通称ドクだ。そう、髪の毛は白くてボワッとしてて化学を教えている、副担任でもある。
だから丸めたプリントでシバかれた。いつもの事だ。
大事なプリント丸めていいのか…。