奪うなら心を全部受け止めて
「高木先輩がですか?」
「ああ。今までちゃんとつき合った事もないし。自分で言うのも何だけど、…こんな顔だから、随分誤解されるんだ。経験豊富みたいに…。
彼女作り放題、ヤり放題、だってな。…無責任な言葉だよなぁ。勝手なもんさ。こっちは迷惑だっつうの」
俺は最近、俺の女子版を想像して盛るショウを不意に思い出し、チラッと見た。
「まあ、モテると思います。二年の女子も高木先輩を好きな子、多いです。ダチなんか、好きな子に相手にもされないって嘆いてますから」
「…何て言ったらいいんだか」
顔の前で手を左右に振った。
「ま、卒業してからがチャンスだって言ってますから大丈夫です」
「そうか…」
「自然の流れです。なるようにしかなりませんから。ダメならダメだろうし。
縁がなかったと、そう思うしかないでしょう」
そう、縁。同じ年代に高木さんという先輩がいたから、全くもてませんでしたって、言えるネタもできてしまう。
「そうか…。縁か…」
「どれだけ力になれるか解りませんが、俺と、それにショウも居ます。話せばダチも協力してくれると思います。谷口さんの事は、出来る限り護ります」
「じゃあ頼めるか?」
「はい」
「有難う千景。それからショウ君」
「はい。俺もショウでいいです。翔吾でも」
「じゃあ…、翔吾。佳織を頼むな?」
「はい。任せてください。全力で護ります」
俺はここにきて調子のいいショウを突いた。
「有難う。はぁ…、少し楽になれたよ。
こんな思いをするのが嫌で、彼女、作らなかったのもあるんだ。
考え過ぎかも知れないけど、俺とつき合う事で思いもよらない事で傷つけたくなかったから」
「今までに好きになった人が居たって事ですよね?」
「うん、まあ、それなりにはな」
「その人に思いは残りませんか?」
「中々答え難い事、聞くなぁ」
「すいません…敢えて聞いてみました」
「…残らない訳じゃない。好きになったんだから。
苦しくてどうしようもないって訳じゃないけど…。だけど、…ずるい言い方かも知れないし、ずるい考え方かも知れないけど、違う場所にあるって感じだよ。
心は心でも違う場所…かな。そこに終ってある、そんな感じかな」
思いの深さは違うかも知れないが、ばあちゃんが言ってた、じいちゃんの大事な人の話と似てる。