奪うなら心を全部受け止めて
・幼なじみ、陽乃
「ごめんなさい、谷口さんて居る?」
「あ、はい。谷口さ〜ん」
教室の入り口の方から呼ばれた。
「はい。あ、果林ちゃん何?」
「佳織ちゃん呼び出しだよ…」
呼ばれて近付いた私に、友達が囁いた。
「多分、高木先輩の幼なじみの人だと思う」
あ。
私は一歩、一歩とゆっくり近付いた。
「あなたが谷口さん?」
綺麗な人だった。黒髪のストレートのロングヘア、色が白くて綺麗な紅い唇…。この間まで中学生だった私とは随分違う。三年生ともなるとは全然違う…。凄く大人っぽく見えた。
「…はい、谷口です」
「私は、陽乃(はるの)。三年の岸谷陽乃って言うの」
「あの…私に何か…」
「少し時間いい?話がしたいなと思って」
「はい、大丈夫ですけど…」
「不安?」
「え」
「物凄く、困った顔してるから」
やばい。
「そんな事ないです。…すみません、大丈夫です」
「そ?じゃあちょっと一緒に来て?」
「…はい」
私は果林ちゃんに手を振って、岸谷さんについて行った。
廊下の行き止まり。
階段の踊り場まで行ったところで岸谷さんは足を止めた。
後ろ姿のまま静かに話し始めた。
「私と優朔ってね、小さい頃からずーっと一緒だったの。幼稚園も小学校も…ずっとよ。今までいつも一緒だったの」
やっぱり、幼なじみの人なんだ。
私に何を言いたいんだろう。鈍感だって解る。この雰囲気とずーっとって言い方が、もうそれだけで、私達の間に入って来ないでって、言われてる気がする。