奪うなら心を全部受け止めて
「だけど安心して?
自分の思いがどうにも成らないからって、谷口さんに意地悪なんてしないから。そんな子供っぽい事はしない。……そんなことをして優朔に嫌われたくない。
…だけど忘れないで。私が優朔の事、好きなんだって事は忘れないで。
私だけじゃない。思いの大小はあっても、優朔を好きだと思ってる子はこの学校にも沢山居る。貴女は、そんな人とつき合うの。
だから覚悟が居るって事。
少々の嫌がらせなんかに負けてダメになるくらいなら、初めからつき合わない事ね。…強くなるのよ。自分の弱さに負けない事ね。
…私は特に味方もしないけど、敵にもならないから、安心して?
これでも一応、激励のつもりよ」
「はい…」
それしか言えなかった。
岸谷さんが強くて、潔くて…言葉に負けそうだったから。
私の思いはまだ始まったばっかり。憧れに近い感じ。思いの強さや深さでは今の岸谷さんには敵わない。
「佳織?」
「あ、高木先輩…」
「なんだ、陽乃。どうした、こんなところで…佳織と二人で」
「なんだ、って…。
…何でもないわよ。ね?佳織ちゃん」
「あ、はい…なんでもないです」
「優朔がいないから、私が変わりにお相手してたのよ」
そうなのか?って言う顔で高木先輩が私を見た。
「はい。あの…高木先輩と一緒に帰ろうかなと思って、覗きに来たら居なくてですね。
だから岸谷さんが話し相手になってくれてました」
「そうか…。じゃあ帰ろう。待たせて悪かったな、折角誘いに来てくれたのに。
担任と話があったから職員室に行ってたんだ。
サンキュー陽乃。じゃあな」
「あ、うん、じゃあね」
佳織はまだ自分から三年の教室になんて行かないだろ…そんな勇気はない。わざわざ目立つような事はする子じゃない…。
佳織は陽乃に頭を下げて、有難うございましたとお礼を言った。