奪うなら心を全部受け止めて

式が始まった。
今年の新入生が入場して来る。

「なあ、千…。可愛い子居るといいな」

「お前は自分の入学式の時からそれが目当てだもんな…。あんまり期待しない方が…」

ザワザワ…。

「お?何だ?この男子だけの微かなざわめきは。否、女子も反応してるな、なんだ…」

「あ、あの子だよ、千」

「へ?痛!何だよいきなり」

真っ直ぐ進んで来る列の後ろの方。
その女の子に視線が集中しているようだった。
頭を両手で挟まれ、ショウに強引に首を回された。

「ばっか…、何すんだ…。痛いだろうが」

「見ろよ、千。千だ、千が居る」

あ?

「お前に良く似てないか?ほら、…すげー。お前の女子バージョンみたいじゃねえ?雰囲気が似てるのかな。…可愛いなぁ。いや、どっちかと言えば綺麗か…。と言う事は…、千。お前が女子だったら、あんな感じってことか?
…参ったな…、俺、お前の事、好きになってたかもだわ。身長高いのはモデル並って事で目を瞑るよ。
ヤバいよ千景ちゅわん」

「馬鹿、気持ち悪い事言うな。離せ、離れろよ、もう…。冗談でも色々想像するだろうが…、早く離れろや」

「千…、もう俺を彼氏として想像したのか?
俺はいいぞ?千とだったら。まずチューからだろ?そして、あんな事や、こんな事…」

「…お前…、いい加減にしろ、盛ってんじゃないよ、俺で」

「ガハハ、お前ら止めろぉ。面白過ぎる。ガハハ。ま、千景が綺麗な顔っていうのは認めるけどな」

「だから、な?そうだろ?お前も千が女子だったら、彼女にしたいと思うだろ?」

「ああ、そうだな。…いや、…う〜ん。う〜ん、そうだな…」

「おい!そこ。悩むのおかしいから。即答で否定しろよ。…お前も想像すんなよ?」

「ぁ……。あ、お、おお、…ぉおお…ぃぃかも」

「や、止めろ。唇をこっちに向けんなアホ。鳥肌が立つわ」

こんなアホなやり取りをしている横を、その子はとっくに通り過ぎていた。

チラッと目が合った気がした。…気のせいかな。
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