奪うなら心を全部受け止めて
「それがどうしたってね?ま、興味があれば、名刺を見た時、記憶してくれてたかな?
急な呼び出しだ…興味以前の事だね。一秘書の名前なんて、それどころじゃないだろうから。確認は松下までかな」
あ、…私、見てたのに。
なんて読むんだろうって思ったんだった、あの時。
「いえ、私、能って漢字、なんてお読みしたらいいかって、思いました。思っていました」
「そう?…有難う。あ、そろそろ…ドライブスルーが…。
谷口さんは何がいい?
俺は、う〜ん、チーズバーガーにしようかなぁ。飲み物、何にしよう…。やっぱ珈琲かなぁ」
前方にドライブスルーが近づいて来た。
あ、どうしよう、悩んでると待たせちゃう。
「えっと…私もチーズバーガーと珈琲で、お願いします」
「了解。んでポテトね」
会計を済ませ注文した物とおつりを受け取った。
さあ、次は海だ。そう言って海に向かって走った。
「谷口さんより、佳織ちゃんでいいかな?いいよね?
でも優朔に怒られるかなぁ。テメー、コラァッ、ボケー、ふざけんな、誰に断って呼んでるんだ、ってね?
あいつ凄いヤキモチ妬きだから」
「クスクス。大丈夫です。そこまでは、そんな事ないと思います」
「そう?佳織ちゃんが言うなら呼んでも大丈夫か」
「はい。大丈夫です」
頭を撫でられた。
「…やっと少し笑えたね」
「あ…、私…」
「いいんだよ。…話はだいたい解ってたから。
ごめんな、命令だとは言え、連れて来てしまって」
「……」
言葉の代わりに首を振った。
やはり何度も確認してくれたのは、こうなる事を案じてくれてたんだと思った。そう思ったら嬉しかった。また目がジワッとした。
でも、もう、泣いちゃいけない。
「あー、何だかポテト食べたくなったかもぉ。
佳織ちゃん食べさせて?はい、あ〜ん」
「え?えー!いきなりですね。ちょ、ちょっと待ってください」
ウエットティッシュを取り出し急いで手を拭いた。
「ハハ。いきなりだよ?早くしてくれないと、間抜け面で口開けたままの俺って凄い恥ずかしいんだけど」
「あー、待ってくださいね…はい」
喉の奥まで入るんじゃないかってくらい慌てて押し込んだ。
「ん、んん、サンキュ。いい大人が恥ずかしい。やってて何言ってるんだろうな。アハハッ。はい、佳織ちゃんも、あ〜んして?」
「えー!私もですか?…私は自分で…それに危ないですよ」
「ダメダメ。ほら、今、赤だし。はい、あ〜んして?」
…はい。素直に開けることにした。
「…あ〜ん。…。ん、美味しい…」
「だろ?俺、凄い久しぶり。あ〜ん、て食べると妙に旨い。それに、特性かな…食べ始めたらやめられなくなる。俺ももう一回あ〜ん」
「もう、松下さん…はい」
「旨い。アハハッ。ちからでいいからね」
「はい。能さん」
「はい、あ〜んして、佳織ちゃん。前から見たら…バカップルだな。アハハッ」
「あの……有難うございます、能さん」
「ん?何?…なんのなんの。…あ、ほら、そっち、もう海だよ」
「はい…」
さりげなく…とても優しい。