奪うなら心を全部受け止めて
車を降りて砂浜を前にしていた。
「はあ〜。気持ちいいですね。眩しい...」
伸びをする。
「がぁ〜。ふぅ。体がバキバキする。最近、運動不足だし。久しぶりだなぁ...海も」
大きな身長で、これでもかというくらい伸びをして体を左右に捻る。
やっぱり似てるかも...。
「...ん?ここ座ろうか」
無意識に見つめて終った...。
「...はい」
階段状になっているところに腰を降ろし、二人でハンバーガーを食べることにした。
「これも、久し振りだけど旨いかも。やっぱり景色とか雰囲気で、味覚は騙されるって、実感。佳織ちゃんと一緒だし。旨さ二割増し?三割くらいかな?」
「クスクスッ。海でしょ?そんな事ありますね。空気とか、天気とかも。一緒に美味しい…」
「ああ、そうだよな。海、空、...他に何もなくて、それがいい...いい景色だ。また来たいな...」
ポンポンと頭に手が触れた。
静かな波の音。風が運ぶ潮の香り。
遠く水平線を眺めた。
......。
「...社長に言われました」
私は社長室での話を能さんに聞いてもらう事にした。
「よく来てくれたね。さあ、掛けてくれ。
今、お茶を持って来させるから」
電話をとった。内線をかけるんだ。
「社長室にお茶を頼む。ああ、そうだ、それも。ああ、頼む。急いでくれ」
…若い。仕事をされているから、そのせいだろうか。お父さんだと聞かなければ、歳の離れたお兄さんみたいに見える。決して大袈裟な表現じゃない。
渋くてダンディー。メタボとは程遠い体型。
素敵なおじ様って感じ。...私ったら。
「失礼したね。私は高木孝朔と言います。優朔の父親です。
谷口佳織さん。今日は突然の事で申し訳ない。許して欲しい。
急にも関わらず対応してくれた事に感謝している、有難う。会って話したいと思っても中々纏まった時間が取れなくてね。
...こんなに遅くなってしまった。
...何をしている訳もないのに、月日の流れるのは早いものだね」
...遅くなった?.今は昼間、今日のことじゃない..早く会っておきたかったって事?
「優朔は高校生まで誰ともつき合っていなくてね」
「はい...」
「もう、このまま誰ともつき合わないものだと思っていたんだよ。それはそれでいいかと」
何だか複雑な表情をしている。どんな話になるんだろう。
「それが...。谷口さん、父親としては優朔の恋愛は大賛成なんだよ。寧ろ、女性とつき合った経験もないなんて、男としては勿論、人としても成長がない。恋愛する事はあった方がいい」
「はい...」
はぁ、何だか……良かった。
優朔のお父さんは、ウン、とゆっくり頷いていた。