奪うなら心を全部受け止めて
「さあ、お花を飾りましょ?この花はね、おばあちゃんが好きな花よ。佳織もちゃんと覚えておいてね?お母さんと一緒に来れない時は佳織がこの花を飾ってあげてね?」
「解った。白いお花ばっかりだね、お母さん」
「そうよ。今は花の名前は覚えられないかも知れないけど見てしっかり覚えておくのよ?」
「解った」
「このクルンってなってるのがカラー」
「カラー?」
「そう。この花びらがフワッとしてちょっと色があるのがトルコキキョウ」
「トルコキキョウ?」
「そう。小さい花が一杯付いているのがかすみ草。
本当はね、おばあちゃん、白いバラが一番好きなのよ。でもね、バラは直ぐにハラハラと落ちて終うから…。お家には飾ってあるでしょ?」
「うん。お家にいつもあるね」
「さあ、お水を沢山入れて」
「うん」
「お線香、濡れて消えてしまいそうね」
「小さいお家の中だから大丈夫だよ」
「そうね。さあ、手を合わせよう?お母さんの傘に一緒に入って」
「うん」
畳もうとした一瞬。手から放れた佳織の小さいピンク色の傘がフワッと舞い上がった。
「あっ、傘。お母さん、傘があっちに」
「大丈夫。すぐ止まるから。おばあちゃんに手を合わせてから追い掛けよう?」
「うん」
円を描くように回ったり、フワッと飛んだり…。道の方へ飛ばされていった。
手を合わせたから行っていいよと言われ、追いかけた。
追いつきそうになると、また離れる。軽く舞い上がる。
「お母さ~ん、取れない」
こっちにおいで…もっとおいで、と呼ばれてるみたいで。
手が届きそうで届かない。追いかけっこになった。