奪うなら心を全部受け止めて
佳織と一緒に居る時に帰って来て欲しいなんて。こんな関係性の夫婦に急に出来る用なんてない。
奥さんの仕業に決まってるじゃないか…。わざとに決まっている。二人が、どこで何してるかなんて、見透されているんだよ…。…。妻という立場が、佳織が幸せを感じることが許せないんだよ。
どんなに愛されていても、佳織の立場は弱い。
社長だか会長だか知らないが…、親に容認されていても常識的には許されない立場なんだぞ。
…所詮、俺には理解出来ない“秩序のない階級の制度"だ。
結婚して愛人を持つ…そんなの普通じゃない。……佳織。
割り切ってるって言っても、結局は夫婦だ、女なんだ。
夫が一心に愛情を注いでいる女が居る…。許せるか?
感情がなくても、妻という立場が、女としての性が、そんな関係の女に憎悪を抱かない訳がない。自分は愛されていないのに、全ての愛は佳織にあるなんて。
解るんだ佳織…。どうしようもないって気持ちは、よく解るんだ。
好きだからどうなっても構わないって気持ちもよく解るんだ。
「好きなんだよな…。ただ好きなだけなんだよな。純粋に好きなんだ。…あの頃のままなんだな。何もかも、始まったあの頃の」
「私の…すべての初めては優朔だから。何もかも…全部優朔だったから。
だから、心だって、…体だって、…全部が優朔を求めるの。ずっと囚われてる。
頭で解っていても、割り切る事は出来ない…出来ないから、会い続ける」
止めてくれ…、俺にそんな言葉を吐かないでくれ。堪えてる思いが…、胸が張り裂けそうになるから。
「会いたいって言われたら…、心が震えるの。
悦びになのか…罪悪感になのか。
…きっと何処か悪いことしてるって思いによね…。軽蔑してるよね?」
「…佳織、俺が居…。否…、俺に出来る事はないのか?
昔みたいに…、何か不安になったら遠慮なく言って来いよ?遠慮するなよな?
お前はいつも我慢して隠すから。隠して一人で堪えようとするから。…堪えられる限界って、有るんだぞ?
小さい痛みの内に解消しておくんだ。…解ってるよな?」
「…うん。大丈夫」
だけど俺は、佳織が色んな思いをしている時に、傍に居てやれなかったんだ…。
期限のない海外勤務になって終ったからだ。