奪うなら心を全部受け止めて


「お邪魔します…」

「おお、遠慮なく、どうぞ」

と言われても遠慮気味に上がった。ドキドキする。

「うわ〜、綺麗に片付いてる…」

「なんだ、佳織の部屋は散らかってんのか?」

「そんな事…ない。普通…多分」

「普通?まあ、普通の基準も人それぞれだからな」

「普通です!普、通」

「アハハッ、まあ、いいさ。そこ座ってて。俺、ちょっと着替えてくる」

「はい」

ここって…普通に社会人の人が一人暮らししてるような部屋だけど…。
もしかして先輩は一人暮らししてるのかな。

「お待たせ。と、どうした?気になるか?
先に食べちゃう?それとも後にするか?」

シャツとデニムに着替えて現れた先輩にドキッとした。

「…食べる?」

「クスクスッ。ああ。
なに考えてた?忘れたてるのか?帰り、チーズケーキ買って来ただろ?それ」

「あ、ああ、そうでしたっ」

「考えてるんじゃなくてぼぉーっとしてただろ?」

近づいて来た先輩の、ボタンが二つ開いた首元に目が行き、勝手にドキドキしていた。

「えっ…うん、何だか…」

恥ずかしい。

「で、食べる?」

「え、はい…食べます」

…緊張してきた。

「先に食べとかないと、気になって勉強にならないもんな?」

「酷いです、高木先輩、そんな子供じゃないです…あ、…優、朔」

「…。紅茶がいい?珈琲は飲める?」

「酷い、飲めます珈琲。ブラックでお願いします」

「本当に?」

「本当です!」

「ムキにならなくても…。じゃあ手伝って」

「え?」

「こっち」

先輩が手を引いた。

「はい」
< 57 / 216 >

この作品をシェア

pagetop