奪うなら心を全部受け止めて


「佳織…」

さっきまでとは違う、真面目なトーンで名前を呼ばれ、少しドキッとしていた。
不意に高木先輩の右手が頬に触れ、親指が唇をなぞった。え…。

「…まだ、痛いか?」

「あ…ううん、大丈夫、です」

あっ…。そのまま頭を引き寄せられ唇が触れた。
驚きのあまり、目を見開いていた。ゆっくりと顔を離した高木先輩は困った顔をしていた。

「ごめん、びっくりしたよな。痛くなかったか?」

コクんと頷く事しか出来なかった。

「佳織…嫌じゃなかった?」

優しく抱きしめられた。コクンコクン頷いた。

トクン…、トクン…。ドッ、ドッ、ドッ…。
どちらがどちらの音か解らない。
二人分のドキドキが重なり、大きく響いた。凄く熱い。

「…佳織?少しこのままで聞いて?」

腕の中で頷いた。

「俺…、佳織の事、凄く大事に思ってるんだ。
卒業してもずっとつき合って行きたいと思ってる。…先の事は解らないし、佳織の思いも変わってしまうかも知れない…。出会ってつき合い始めて、まだ日も浅い。
お互いの見えてない部分もまだまだあるだろ?
でも俺は、佳織を好きになった直感を純粋に信じたいと思うんだ。何があっても俺を信じてほしい。信じられる?」

「あ、優朔…」

「佳織…。いきなり過ぎて解らないよな。だから今は何も言わなくていい。急に…こんな事して、こんな話したら、パニックだろ?…ごめんな?だから、今は聞いてくれるだけでいいんだ」

「あっ、私…」

両手で頬を包まれ、もう一度口づけられた。
唇を離した先輩が首を振る。

「俺、男なんだよ。我慢するのも辛いもんだよ?可愛い過ぎて困るんだ…佳織」

…はぁ。好きだからつき合っている。
話された事、…キスされた事。
当たり前だけど、私と先輩は男と女なんだ…。
< 62 / 216 >

この作品をシェア

pagetop