奪うなら心を全部受け止めて
「俺は佳織の事が好きだ。それはこの先何があろうと変わらない。それはよく覚えていて欲しいんだ。俺を信じて欲しい」
何故、俺に宣言する。二人の問題だろ…。信じてほしいって言葉も妙に合わない。
別に俺が信じようが信じまいが関係ないと思うけど。
「今は高校生だから、仕方なく親の言いなりに、この部屋を引き払うようになったけど、大学生になったら、また一人暮らししようと思ってる」
「はい」
「ふぅ。…俺には俺の意思に関係なく、既に決められた結婚相手が居る」
「え?え、今何て…」
「俺には結婚相手が居る。…そう言った」
「え、そんな…そんな事、え…じゃあ、佳織ちゃんは、佳織ちゃんはどういうつもりで…」
どうなるんだよ…。
「じゃあ、どうして…」
好きだなんて。つき合ったりしたんだ。…無責任過ぎる。あんまりだ。
「待ってくれ。そうなるのは解ってる。…うん。変だよな…。俺は佳織が好きで将来も考えてると言ってるのに、別に相手が居るなんて言って。なんでそんなことしたんだって。悪い、ちょっと待ってて」
そう言って先輩は部屋を出た。
…一体、何なんだ、こんな話。俺に聞かされてる意味があるのか…。
今から俺が佳織ちゃんとつき合う事になるからか…。これから二人に、より深く関わる事になるからか…。
知らないよな、佳織ちゃんは。先輩に決められた相手が居るなんて。知らないよな。知ってたら無理だろ。
先輩は何を考えているんだ。
俺には解らない。まさか遊びのつもりでだったなんて、そんなことは言わないよな。そんな酷いこと…。
「悪い。缶コーヒー買って来た。ブラックだけどいいかな」
先輩が帰って来た。
「あ、は、はい。大丈夫です」
そんなの、いい、どうでもいい。それどころじゃない話じゃないか。