奪うなら心を全部受け止めて
「だけど聞いて欲しい。言い訳がましく聞こえるかも知れないが聞いてくれ。
俺の言う愛人というのは、世間でいうのとは違う。愛してる人という意味なんだ」
「…でも、…だけど、何が違うって言うんです。
立場は変わらないじゃないですか。奥さんじゃないんだ。そんなの同じだ」
「…俺の我が儘なんだ。…結婚は、一生その相手と添い遂げないといけない。会社の為…好きでもない人と結婚して、別れる事も出来ないんだ。本当に何もない、子持ちを無視した政略結婚だ。
俺はどうしても好きな人と居たい事を諦められない。俺達の政略結婚には決まり事があるんだ。お互いに配偶者以外に好きな人が居ても構わないと」
「そんな…都合のいい話…。
相手の人は先輩の事、好きって事はないんですか?いくら政略結婚だからと言っても、無感情じゃないかも知れないじゃないですか。もし、好きだったら?結婚してから、もし、好きになったら?」
「それは解らない。知らない。相手の名前は知っていても、それ以上…考えた事もない。
多分、向こうだって似たような感情だと思っている。…初めから、お互い諦めた結婚だと思ってる。勝手に決められてる段階で、反感しか湧かないだろ?」
「…それでも確かめてみないと解らないじゃないですか。
その相手の人が先輩の事を好きなら、その人も傷つきますよね。…否、みんな傷ついて終います。いいことなんか一つもない…」
「…そうだな。でも、それを飲み込むのが政略結婚とも言えるんだ。…そんな家に生まれた事を恨むしかないんだ。…恨んでも仕方ない事だけどな。
俺は佳織を離したくない。好きなんだ。
だから一緒に居たいんだ」
「…そんなのは卑怯だ。先輩の我が儘だ。つき合ってくれと言う前に話しておかないなんて、…先輩、卑怯ですよ。それに、好きだって言っちゃ駄目じゃないですか。酷いですよ、こんなの。
好きになって終ってからでは、別れるにしても傷つくじゃないですか」
どんどん好きになってるだろうに。