奪うなら心を全部受け止めて
「…。んんっ。それとなく、ショウに噂させます。先輩と佳織ちゃん別れたみたいだって。
あいつ、そういうの目茶苦茶得意分野なんで。
大袈裟にならず、上手く出来ると思います」
「そうか…。決めた事とは言え、何か複雑な心境だ…」
嘘とはいえ、別れるからですよね。
「……。先輩、実家に戻るんですよね」
「ああ、…仕方ないけど。此処に居るのもばれてたし。…どこで何してても、親の囲いの中からは所詮出られないって事だ」
「はぁ、でかい家は大変ですね」
「俺は、ただ生まれただけだよ…。
…それでも、子供のうちは楽しかったよ。今よりもっと子供の頃の事だけど。ずっと子供で居られたらいいのにな…。そうはいかないのは解っているけど…知りたくもない現実なんて…」
「…はい。子供で得な事もありますが、少し大人にならないと経験出来ない感情もあります。
…それは大事な、必要な事だと思います」
「千景は大人だな」
「はっ、俺ですか?全然ですよ。何となく、副担任に、大人とは、みたいな事、匂わす事言われた事もありましたけど、…まだ今のまま、出来たら居たいですね」
責任がないわけじゃないのに親に責任があるような、中途半端な年齢…。
「…そうだな」
「話、戻しますけど、先輩と佳織ちゃんで行動する時は、連絡して貰う形でいいですか?
基本、当分俺は、佳織ちゃんと帰るようにするので」
「解った。連絡は俺からするようにする。その方が無駄がないし」
連絡先を交換して、帰る事にした。
「千景、佳織を頼むな?」
「はい」
俺が先輩に尋ねようとして止めた事…。
それは、佳織ちゃんとキスはしたのだろうかという事。…その先も。
ま、結局恥ずかしくて聞けなかったけど。