奪うなら心を全部受け止めて
「ねえ、谷口さん。
貴女って凄いのねぇ。高木君と終わったと思ったら、もう次?しかも2年のあの仲城君らしいじゃない。どんな手を使ったらそんなに上手くつき合えるの?教えて欲しいんだけど。
それとも、仲城君とつき合ってるってのは、嘘なんじゃない?高木君にフラれても、私は困らないのよ、みたいに見せたくて」
「ち、違います。私と、ち、千景はつき合っています」
「きゃー、千景ですってぇ。凄〜い。ね〜」
「ね〜」
「あんな男前でモテる2年に、随分貴女って偉いのね?そうだ、つき合ってるっていうなら、証拠、証拠見せなさいよ。つき合ってる証拠、見せてくれたら信じてあげてもいいわよ?」
証拠。…そんな事言われても、困る。何も無い。千景って、言わなきゃ良かった。余計、酷く言われてるき気がする。
…助けて、千景さん…。
「…そんな」
「あ、写真とかは駄目よ。あんなの頼めば、二人で写すとか、何とか出来るんだから」
「キスでもしてもらう?それがいいんじやない?」
キスなんて…。
「え〜、嘘なんだから、そんなの無理に決まってんじゃない?」
「でも、そうね。私達の前でキスしたら信じてあげる。もう、こんな事もしないわ」
…。…そんなの、…困る。出来ないよ。
「どうしたの?仲城君、呼べば?呼んでキスして見せてよ」
「そんな事…」
「出来ないんだ。ま、どうせ、無理な話よね〜」
「ね〜」
「……」
「おい。あんたら、佳織に何してる」
「あ、仲城君」
えっ。はぁ、…千景さん…。
「3年生…ですよね?佳織に何か用ですか?」
「用って言うかね〜」
「…ね〜」
「高木君と別れたばっかりなのに、もう仲城君とつき合ってるって噂だから。本当かどうか確かめようと思って。それが本当なら、証拠見せてって、聞いてただけよね?」
「ね〜」
「佳織、そうなのか?」
「…うん」
明らかに怯えている。そんな優しい聞き方じゃない筈だ。
「それで、証拠って、どうしたら信じて貰えるんですか?」
「それは…キスしてくれたら信じてあげるって、言ったのよね」
「ね〜」
「佳織…」
あ…。
佳織の両頬を包むと、屈み込むようにして口づけた。
「えっ!?」「キャッ、嘘…」
「…これでいいですよね?」
「わ、わ、解ったわ」
「もう二度と佳織にこんな事しないでください。お願いします」
「わ、解ったわよ。も、もうしないから」
「絶対ですよ。約束してください」
「解ったから、もうしないわよね」
「し、しないから。約束するから。ごめんね。い、行こう」
つき合ってるなんて嘘だ。
そう確信して証拠を求めたのに、なんの躊躇も無くキスした事に驚き、動揺した3年女子は、ヨタヨタしながら廊下を歩き去った。