奪うなら心を全部受け止めて
見えなくなる迄二人の姿を見送っていた。
居なくなった途端。
「佳織ごめん!本当ごめん。…あの場は、こうするしかないと思って。迷ってると駄目だと思ったから。ごめんな?いきなり。本当、ごめん。
大丈夫だったか?」
「あ、…び、びっくりしましたけど。あ…有難うございます。…助けてくれて」
ガクッと膝から崩れ落ちそうになった。
「おっ、大丈夫か?」
「怖かった。…怖かったです、千景さん」
崩れそうな佳織を抱き留め、立たせると、震える佳織を抱きしめた。
「大丈夫、もう大丈夫だ。あの人達も、もうこんな事しないって約束したし。きっと大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫」
「…はい」
トクントクントクン…。
冷静によく考えたら…私、…。千景さんとキスしてしまった…。
「…佳織?こんな事されたの、今日が初めてじゃないだろ?今までだって、こんな目にあってるだろ?…正直に言ってくれ。高木先輩とつき合い始めた頃にもあっただろ?」
「……」
「…佳織?」
「…あった」
「そうだろ。…。言わないんだよな佳織は。…あの時は、あんなに濡らされるような事されて、たまたま果林ちゃん達が居た時だったから解ったようなもので。駄目だよ?どんな小さな事でも話す約束だっただろ?…言ってくれなきゃ解んないだろ?」
「…ごめんなさい」
「責めてるんじゃ無いんだ。…大した事ないって、溜め込んだら辛くなるだろ?我慢したら駄目だ」
顔を覗き込まれた。
「…はい」
「…違う。うん、だ。次、もし今日みたいな事とか何か言われたら、絶対、いいか?絶対話すこと」
「…うん」
「よし。絶対だからな?」
佳織に偉そうに説教しながら、今になってドキドキしていた。…静まれ、俺の心臓。俺…、事態の収拾の為とはいえ、キスしてしまった。先輩に謝らないとな…。あっ。
「佳織?ちょっと…聞き辛いんだけど…、いや、あのな、…先輩とは、…もう、してたかなと思って」
「え?」
「その…キス…」
あっ。佳織は見る間に赤くなった。
「あ、…は、い。はい、大丈夫です。……しました」
「そっか。……ほぉ。良かった。いや、良くはないけど。俺がした事は良くないけど、…佳織と先輩のファーストキス、奪わなくて良かった。そこは安心した。
でも、本当、ごめんな?俺、死ぬ覚悟で先輩に謝らないといけない。…殺されるな…」
「千景さん…」