奪うなら心を全部受け止めて

「護って欲しいと千景に頼んだのは俺だから。
…それなりに見えるように、多少の事は我慢しないといけない。…頭では解ってるんだ。
はぁ…、情けない」

「え」

「…佳織の事になると、大人にならなくちゃいけないと解っていても、冷静になれない。
…もの凄く、大切に、大事にしたいと思ってるんだ。今回の事、気にしないでくれ。いや、うう〜ん、…少しは気にしてくれ。…駄目だ。
本当…支離滅裂だな」

「いえ、俺、気にします。凄く悪い事したって…自分に言い聞かせておきます。本当、すいませんでした」

「いいんだ千景。そんなに罪悪感を持たないでくれ。上手く言えないけど、気持ちだけ解って貰えてたら、それでいいんだ。決して軽い気持ちで簡単に許したんじゃないって事だけ、覚えていて欲しい」

「…はい。本当、すいませんでした」

「だから、もういいんだって。…待ってるだろ?佳織。今日も一緒に帰るんだろ?早く行ってやってくれ」

「…はい。…じゃあ、俺…帰ります。…すいませんでした」

「うん、いいから。…頼むな?」

「…はい」


千景…。言い過ぎたかな…。でも、俺も不安なんだ。怖いんだよ、千景。
千景?お前…佳織の事、好きだろ?まだ気がついていないのか?…。自覚はないのか?
自然体であんなに仲良くしてるのが…怖いんだ。
聞いて確認する事は出来ない。その結果意識させてしまったら…。それが恐いんだ。………考えたくない。
千景、俺は狡いんだ。佳織を護ってくれと、他の誰でもない、お前に頼んだのは、…お前があまりにも簡単に、佳織の心を掴んでいたからだ。
ごめんな…。俺、佳織を失いたくないんだ。
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