奪うなら心を全部受け止めて
・ここは?ここが…
・佳織25歳
「さぁ、入ってください」
そう言われても、戸惑って終う。
「さぁ、どうぞ?」
「はい。あの、ここは…」
連れてこられたけど、一体どういった…。
「ここは俺のマンションです。と言っても、使ってない部屋です」
「松下さんのマンション…?」
「はい」
秘書さんて凄いんだ…。ここの他にも部屋があるなんて。
独身って言ってたよね。趣味の為の部屋かな。何かの保管用かしら。それにしては物が揃ってるか…。
「はい、鍵。渡しておきます。優朔も鍵、持ってます。いつでも二人で自由に使ってください。ここは…今から二人の部屋です」
鍵を手に乗せ握らされた。
「え、あの…え?」
松下は頷く。ソファーに座るよう促され、キッチンに向かうと珈琲を入れ始めた。
「二人の為の部屋です。優朔は、立場上…解って頂けますよね?
お洒落なホテルのスイートを利用出来れば良いのですが、表立って目立つ行動は、やはり避けて頂きたいのが私の本音です。すみません。会社を思えば、トップのイメージは経営に左右しますので。
やっと会えますね、優朔に。あれから五年…、か。
……さあ、どうぞ」
珈琲の香り。…癒される。
「有難うございます」
「優朔とは、連絡は?」
「…ずっと、しませんでした。優朔が学生の頃も、…そのまま向こうで仕事を始めると松下さんから教えて貰ってからも、ずっと連絡を取る事はしませんでした」
「そうですか…。何故?聞いてもいいかな?」
連絡を取っていなかった事は知っている。声を聞いも、会える訳ではない、中途半端になってしまうからか。
「離れていても信じようと思ったからです。会えなくて不安になる事、乗り越えられなければ、これから先も、事あるごとに負けて終うんじゃないかって。決して簡単な道だとは思えないから」
「結果、優朔は、ぞっこんだった訳だ。佳織ちゃんのところに帰って来る。
帰国したら、早々に結婚式を挙げる事も聞いていますね?」
「はい」
「いいのですね?覚悟されたのですね?」
「はい。それしか…この思いに道はありませんから。あの日から、この気持ちは変わりません」