奪うなら心を全部受け止めて
・確認の上の、事と…次第
「社長、お伺いしたい事があるのですが、今、お時間を頂いても構いませんか?」
車で移動中、ルームミラー越しに優朔に問いかけた。
「ん、何?どうしたぁ?能。…よし、OK。構わないぞ」
書類に目を通していた優朔は問い返した。
書類のファイルを閉じ、顔を上げた。
「有難うございます。私が立ち入る事ではございませんが、…最近、奥様は、何か様子がおかしいと言いますか、気になる言動とか、ございませんか?」
「…何かあったんだな?」
「…少し、行動が…。常軌を逸しているかも知れません」
「おかしいとは、具体的にどういう事だ?」
「社長はマンションの鍵はいつもどうされていますか?」
「…松下のマンションの鍵の事だよな?」
「はい、そうです」
「いつも仕事用の鞄の中だ。その時々、…手帳の裏表紙に入れておく時もあれば、…場所は色々変えているが、いつも鞄の中にはある。
財布に入れてる時もある。カードキーだからな、その方が都合が良い時もある。
何処に何を入れて置いても、俺の持ち物に識子が触れるのは可能だ…」
「そうですか…。違和感を感じられた事はないですか?
動かされているとか」
「ん〜、仕舞った同じ場所にあるから、違和感は感じた事がない」
「そうですか。そこは気になさっているのですね」
「当たり前だ。無くなったりしたら大変だからね」
「まだ確認した訳ではいので、断言は出来ない段階の話です。…どうも誰かがマンションに出入りしている形跡があるようで…、佳織さんが部屋に違和感を感じると…そう気にされて。
…少し恐怖を感じてらっしゃるようです」
「…佳織が?能にそう言ったのか?」
「…ええ。…連絡があって伺いましたら、私に、部屋に入る事はあるのかと、尋ねられました。
勿論、私は入っていませんが」
「そうか…。能と佳織は、随分親しいんだな…」
何を勘繰っている。今になって。
「はぁ。…親しいさ。…親しくもなるさ…。
優朔が留学する前、優朔の親父さんに話をされた後、あんなにショックを受けてた女の子。
放って置ける訳ないだろうが。まだ二十歳そこそこの女の子にだぞ」