アナタがここにいる、それだけで・・・・・・【ぎじプリ】
どうせわたしは、まだ入社2年目のひよっこですよ。
この会社と共に歩んできたアナタからみれば、ずっとずっと子どもかも知れないけれど。
すっかりヘソを曲げた私の頭の上に、クスリと笑みを落とされる。
「悪い。泣き顔があまりにも可愛いかったから、つい」
とたんに赤くなったわたしの耳に、彼は息がかかるほどに唇を近づけた。
「お詫びに、オレだけの秘密を教えてやる」
甘く首筋を撫でる吐息に、思わず出た「きゃっ!」という私の声を人差し指で塞がれて。
彼が「静かに」と瞳で語ったまま細い顎で示した方へ、そろりと首を巡らした。
そこに捉えたものに、今度はわたしが自分の口を手で押さえる。
わたしをいびった『お局様』こと青木先輩と、営業2課の安田係長が、廊下の陰で険悪な雰囲気を漂わせていた。
もしかして?
わたしの視線に、彼は人の悪い笑みを浮かべて頷く。
「ご名答!どうやら、別れ話がこじれているみたいだ」
「だって!安田さんは――」
遠目にも判る左手の薬指に光る、プラチナのリング。
彼は、ふぅと悩ましげなため息を吐いた。
「彼らもよくここに来ていてな。彼女の方が、別れないと駄々をこねているらしい」
青木先輩たちを視界から遠ざけるように、驚きで固まったわたしの肩をクルリと反転させる。
「だから、彼女は虫の居所が悪かったんだ。おまえは八つ当たりをされただけ。あまり思い詰める必要は無い」
彼の言葉に、柔らかく背中を押された。