完璧上司の秘密を知ってしまった件について
小さなメモ用紙に、何かを書いた須藤課長は、凛にすっとそれを差し出した。

「…あの?」

理解出来ずに問いかけると、須藤課長はいつものスマイルでこう言った。

「申し訳ないんだけど、これ、すぐ近くのスーツ店で、買ってきてくれないかな?」

「…ワイシャツですか…ぅ」

…差し出されたメモを見て、凛は思わず顔色を変えた。

「…もう少ししたら、大事な商談に行かなきゃ行けないんだ。…五分以内に頼める?」

口は笑っているが、目が笑っていない。…誰のせいだと思ってんだ?と、目が言っていた。

「…五、五分以内」
「…さっさと行ってこい」

(こ、怖すぎる!)

「ハイ‼︎」

誰にも聞こえない怖すぎる声に、凛は風の如くオフィスを出て行った。

…8分経過。

…10分経過。

「はぁ、はぁ…買ってき、ました」
「…チッ、五分遅刻」
「…」

(ここまでくると、ご主人様と、下僕のようだ)

凛は半泣き顔で、袋を渡すと、トボトボとデスクに戻り、仕事を始めた。

「…ご愁傷様」

隣の先輩がボソッとつぶやく。

「…オリンピックで金メダル取れそうです」

凛の言葉に、先輩は吹き出した。

…その後、睨まれたのは言うまでもない。
< 14 / 77 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop