Mr.ハードボイルド
「あのさあ、トミー、手伝ってほしい仕事があるんだけど」
ニーナは神妙な表情で、俺に言った。
「あぁ?なにをだ?」
「あのね、トミー、この事務所の近くに、山内豆腐店てあるの知ってる?」
ん?
豆腐店?
俺は豆腐とか食わねえからなぁ。
「知らん」
俺の答えに彼女は続けた。
「私ね、そこのお豆腐大好きなの。仲のいいご夫婦がお店やっててね。まだ、私がキャバクラで働いていた頃からのつきあいなんだけどね。そこのご主人が入院しちゃって、今ね、お店が大変なの」
ニーナの言葉にはいつもの元気が無い。
「で、俺にどうしろと?」
「だからね、トミー、ご主人が復帰するまでお店の手伝いをしてほしいの」
はぁ?
なんですと?
「おい、ニーナ、俺は豆腐屋の仕事なんてなんも知らないぜ!俺なんかが手伝ったらかえって迷惑だろ?それに、その店には子供とかいないのか?」
彼女は今にも泣き出しそうな表情をした。
「大学生の娘さんがひとりいるけど」
「じゃあ、その娘さんに手伝いさせりゃ済むんじゃねえか?」
「朝の仕込みはそれで大丈夫だと思うけど、日中の配達とか出来なくて奥さんが困ってるの」